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機織り職人の仕事場から…

teorimono.exblog.jp

糸の味

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我が家ではもう50年以上“紬の反物”を織り続けていますが、この経糸には“玉糸”と呼ばれる糸を使っています。玉糸は“玉繭”と呼ばれる繭から引かれた糸の事です。そしてこの“玉繭”とは複数の蚕が一つの繭を作ってしまった物で、玉繭を糸に引くと素直に解けないで所々に繊維のからみ合った“節”と呼ばれる太さのムラが出来ます。この不規則な太さの糸を経糸に用いることで、織り上がった布には独特のふくらみを持った味わいが生まれるのです。

この玉糸の節は「小さく数が少ないほど糸が扱いやすい⇒織り上がった布はのっぺりとしている」「節が大きくて多いほど織りの工程で手間がかかる⇒織り上がった布に味がある」という相反する性質を持っていて織り手としてはここが大いに悩むところなのです。

玉糸の節の多い少ないは糸を引くときに用いる玉繭と普通の繭との比率によって、または糸を引きそろえて撚糸する時の玉糸と生糸の混ぜ具合で調整できます。今まではこの方法で“ほどほどに扱いやすく”“そこそこ味のある”玉糸を作ってもらっていました。

しかしある時、糸屋の糸の中にとんでもなく太さのまばらな絹糸を見付けました。聞いてみると“座繰り製糸された玉糸”との事です。それまでに見たこともなかったこのでたらめな糸が何とも魅力的で「この糸、使ってみたい!」というと糸屋のおっちゃんが「その糸は強い撚りを掛けたら駄目ですよ」とおっしゃる。「じゃあ、撚糸はお任せするので撚っておいて」とお願いして糸の到着を待ちました。

我が家に届いたこの糸を早速精練すると、釜から引き上げた糸には細い繊維があちこち絡み合って何とも手ごわそうです。節が多くて甘撚りの糸なので予想はしていたもののかなり手こずり、挙句に糊付けに失敗(糊が弱すぎた)して、機に掛けて織り始めたら大変な毛羽立ちでした。ここまで来るともう後戻りは出来ません。機の上で糊をスプレーで糸に吹きかける⇒乾燥する…を繰り返しながら何とか最初の一反を織り上げました。


この糸を使って“海老茶・無地”の反物を織っています。節のある糸が味のある布になり、きっと存在感のある無地着物になると思います。そしてこれは着る人本人しか味わえないのですが、この糸で織った布はふくらみのある柔らかな手触りが魅力です。
by kageyama_kobo | 2013-10-31 20:46 | 染めと織りの素材