機織り職人の仕事場から…

ヤクの糸

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今から40年ほど前、ネパール旅行に行った父が“ヤクの毛のセーター”を土産に買って帰りました。白やネズや茶色が混ざったとてもワイルドな質感のセーターで、紡がれた糸の中には剛毛や草の種や糞までもが混ざっていました。糞の臭いが強烈でとてもそのままでは着られる状態ではなかったので洗濯をすると、洗濯液が醤油色になるほど汚れが落ちました。

洗濯が終わって臭いも消えたそのセーターをいざ父が着てみると、前身頃と後ろ身頃の寸法が違い、さらには左右の袖の長さも違っていました。仕方が無いので母が全部解いて父の体に合わせて編み直しました。

父はこのセーターをとても気に入り、着ては洗ってを繰り返すうちにウールにはない柔らかさが感じられるとても風合いのいいセーターになったのでした。

それから何年後かに、知人を通じて“ヤクの毛”を手に入れることができました。魅力的な素材であることは父のセーターを通じて知っていたのですが、この時いただいた毛を手にして驚いたのはその柔らかな手触りでした。父のセーターの糸は現地の人がヤクの体毛を所構わず糸に紡いで編まれたものでしたが、この時いただいたヤクの毛は硬い剛毛を全て取り除き、ヒマラヤの冬の寒さからヤクの体を守るための極細の体毛だけを選別したものでした。この毛の印象を言葉で表現すると“カシミヤのような感触”でした。

この毛は自分で手紡ぎしてストールに織り上げましたが、滑り感のあるとても心地よい手触りの布に仕上がって嬉しかったことを覚えています。

そして最近になって“ヤクの糸”を手に入れました。グレーと茶と黒の三色です。私が紡いだ糸よりは撚りも強く少々硬い感じの手触りですが、まずはこれをマフラーに織って縮絨させて、どのような布になるのかをテストしてみようと思っています。
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by kageyama_kobo | 2014-09-10 13:59 | 染めと織りの素材