機織り職人の仕事場から…

カテゴリ:染めと織りの素材( 51 )

男の黒紬…節糸を活かす布づくり

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我が家ではもう50年以上も前から“紬”の反物や帯を織ってきました。“紬”とは蚕の繭を真綿にし、この真綿から紡ぎ出した糸のことを言います。一本の糸の中に太い所や細い所のある紬糸は、布に織ることでその太さのムラと糸の膨らみが独特の風合いを生みます。この“紬糸”を経糸または横糸もしくは両方に使用して織られた生地を“紬”と呼びます。
幼い頃からこの布が身近にあった私は、今でもまっすぐで綺麗な糸よりもデコボコのある(節のある)糸がお気に入りです。

ある時知人から国産の蚕(ぐんま200)の繭を譲り受けました。私自身が糸を作れる訳ではないので、以前より交友があり群馬県で養蚕から座繰り製糸までを一貫して行っている東宣江さんに糸に引いていただくことを依頼しました。

「節のある糸を使いたいので、できたら玉糸で…」とお願いして出来上がってきた糸をこの度やっと機に掛けることが出来ました。今回は糸の節を活かした反物を織りたかったので、思ったより節がおとなしく感じたこの玉糸に6パーセントほど紬糸を混ぜて経糸としました。(写真でグレーに見えるのが“紬糸”です)

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「思ったよりも節がおとなしかった」と感じた座繰りの玉糸でしたが、いざ整経し機に掛けてみるとなかなかのじゃじゃ馬です。ご覧のように人間の髪に例えると“枝毛”のような遊び糸が沢山あり、この糸が絡んで紬糸の細い部分(髪の毛より細い部分もある)が頻繁に切れるのです。

以前にもこのような事があり経糸に糊をスプレーしながら織った事があったのですが、やはり初めて使う糸は予想がつかないため見た目の判断だけでは上手くいかないことがたびたびあります。今回は何とかこのまま織り上げようと思っていますが、次回からはこの遊び糸を抑えるためもっと強い糊を付けます。

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ここ10年ほど“糸味を活かす布づくり”を意識して布を織っています。今回の反物もその一つで、色もなければ柄もなく“糸味”のみで布を表現する“黒無地”です。男性用の羽織地に使っていただけたらと“男の黒紬”と名付けました。写真でお分かりのように玉糸や紬糸の太さのムラが布の表面に不規則に現れる“節糸独特”の表情となりました。

“枝糸が絡んで紬糸が切れる”事ですが、これは決してデメリットだけではありません。これほどに枝糸がある経糸で織られた生地は、糊を落とし砧打ちで仕上げた後に何とも言えなく心地よい“滑り感”が生まれます。この手触りこそが扱いにくい節糸を苦労して織り上げた人にのみに与えられるご褒美だと感じています。

私は長い間機械製糸で作られた玉糸を経糸に使ってきましたが、この“滑り感のある手触り”は座繰りという人間の手で引かれた糸でしか感じる事の出来ない独特のものです。できる事なら一人でも多くの紬を織る人・紬の着物を身にまとう人にこの感触を体感していただきたいと思っています。



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by kageyama_kobo | 2016-09-23 01:36 | 染めと織りの素材

蓮の糸を織る…最も重要な工程

f0175143_9321777.jpg蓮の糸100%で織る服地。いよいよ本番が始まりました。
経糸は整経長6m・糸数1400本、総延長は8400mにもなります。

糊付けの終わった糸を整経するために木枠に巻き取るのですが、この時点で今後糸のトラブルにつながる要素をすべて取り除かなくてはなりません。

なぜなら機にセットした経糸にはテンションがかかっているため、節や結びこぶを取り除いたり糸を結びなおしたりの作業がとてもやりにくくなるからです。

f0175143_9345297.jpg木枠を巻く座車のハンドルを右手でゆっくり回し、左手の親指と人差し指に神経を集中して糸の節や結びこぶを探します。

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となりの糸に絡みつきそうな遊び糸や筬に引っかかりそうな大きな結びこぶ・ゴミ・節などを丁寧に取り除いておくことで織りの作業が快適にでき、さらに織り上がった布もきれいに仕上がります。

f0175143_9364197.jpg取り外した節糸や切り取った結びこぶなどが半日でこんなに足元に溜まります。

f0175143_9365865.jpg経糸の本数が多いので今回は3回に分けて整経をします。

昨日の朝から夜までかかって全体の1/3の経糸を木枠に巻き整経まで行いました。すべての経糸の整経が完了するのにはあと二日必要です。




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by kageyama_kobo | 2016-08-19 10:01 | 染めと織りの素材

蓮の糸100%の布

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蓮の糸100%で織る布の注文が入りました。今回の依頼は服地です。
初めて使う糸ということで、まずは糸の太さを確認しながら筬を選び試し織りをします。
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手紡ぎの糸なのでご覧のように太さは不規則です。引っ張り強度が弱い上に毛羽があったり抜け切れしやすかったりとかなり曲者の糸です。従って織りながらも経糸はよく切れます。切れたら糸の細い部分でつないで結びコブが筬に掛からないように気を使います。
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織り上がった部分は自然の生成り色が重なり合って独特の色合いです。

機から降ろしたら糊落しをして、最終的に風合いの確認をします。
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by kageyama_kobo | 2016-08-06 23:16 | 染めと織りの素材

5種類の木綿布

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木綿の糸紡ぎがライフワークのYさんから5種類の糸が送られてきました。ペルー、アメリカ、インド、エジプト、メキシコと世界の各地で作られた綿を丁寧に紡いだ糸です。

それぞれに色・艶・膨らみ・手触りの違ったこの糸をすべて同じ条件で織って欲しいという注文をいただきました。
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織り上げた後、糊落し・ざら干し・アイロン掛けをした5種類の布を並べてみると夫々の綿ごとに特徴があり、また妙に共通点が感じられたり、とても興味深い結果となりました。

我々にとってはもっとも身近な繊維の木綿ですが、その産地や種類までも意識して見につけることはめったにありません。しかし、木綿がこのように産地ごと種類ごとにはっきりとした個性を持つことに気付くと、この特徴を活かした糸作り・布作りに思いが広がります。
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by kageyama_kobo | 2015-04-03 09:05 | 染めと織りの素材

ヤクの糸

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今から40年ほど前、ネパール旅行に行った父が“ヤクの毛のセーター”を土産に買って帰りました。白やネズや茶色が混ざったとてもワイルドな質感のセーターで、紡がれた糸の中には剛毛や草の種や糞までもが混ざっていました。糞の臭いが強烈でとてもそのままでは着られる状態ではなかったので洗濯をすると、洗濯液が醤油色になるほど汚れが落ちました。

洗濯が終わって臭いも消えたそのセーターをいざ父が着てみると、前身頃と後ろ身頃の寸法が違い、さらには左右の袖の長さも違っていました。仕方が無いので母が全部解いて父の体に合わせて編み直しました。

父はこのセーターをとても気に入り、着ては洗ってを繰り返すうちにウールにはない柔らかさが感じられるとても風合いのいいセーターになったのでした。

それから何年後かに、知人を通じて“ヤクの毛”を手に入れることができました。魅力的な素材であることは父のセーターを通じて知っていたのですが、この時いただいた毛を手にして驚いたのはその柔らかな手触りでした。父のセーターの糸は現地の人がヤクの体毛を所構わず糸に紡いで編まれたものでしたが、この時いただいたヤクの毛は硬い剛毛を全て取り除き、ヒマラヤの冬の寒さからヤクの体を守るための極細の体毛だけを選別したものでした。この毛の印象を言葉で表現すると“カシミヤのような感触”でした。

この毛は自分で手紡ぎしてストールに織り上げましたが、滑り感のあるとても心地よい手触りの布に仕上がって嬉しかったことを覚えています。

そして最近になって“ヤクの糸”を手に入れました。グレーと茶と黒の三色です。私が紡いだ糸よりは撚りも強く少々硬い感じの手触りですが、まずはこれをマフラーに織って縮絨させて、どのような布になるのかをテストしてみようと思っています。
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by kageyama_kobo | 2014-09-10 13:59 | 染めと織りの素材

糸の味

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我が家ではもう50年以上“紬の反物”を織り続けていますが、この経糸には“玉糸”と呼ばれる糸を使っています。玉糸は“玉繭”と呼ばれる繭から引かれた糸の事です。そしてこの“玉繭”とは複数の蚕が一つの繭を作ってしまった物で、玉繭を糸に引くと素直に解けないで所々に繊維のからみ合った“節”と呼ばれる太さのムラが出来ます。この不規則な太さの糸を経糸に用いることで、織り上がった布には独特のふくらみを持った味わいが生まれるのです。

この玉糸の節は「小さく数が少ないほど糸が扱いやすい⇒織り上がった布はのっぺりとしている」「節が大きくて多いほど織りの工程で手間がかかる⇒織り上がった布に味がある」という相反する性質を持っていて織り手としてはここが大いに悩むところなのです。

玉糸の節の多い少ないは糸を引くときに用いる玉繭と普通の繭との比率によって、または糸を引きそろえて撚糸する時の玉糸と生糸の混ぜ具合で調整できます。今まではこの方法で“ほどほどに扱いやすく”“そこそこ味のある”玉糸を作ってもらっていました。

しかしある時、糸屋の糸の中にとんでもなく太さのまばらな絹糸を見付けました。聞いてみると“座繰り製糸された玉糸”との事です。それまでに見たこともなかったこのでたらめな糸が何とも魅力的で「この糸、使ってみたい!」というと糸屋のおっちゃんが「その糸は強い撚りを掛けたら駄目ですよ」とおっしゃる。「じゃあ、撚糸はお任せするので撚っておいて」とお願いして糸の到着を待ちました。

我が家に届いたこの糸を早速精練すると、釜から引き上げた糸には細い繊維があちこち絡み合って何とも手ごわそうです。節が多くて甘撚りの糸なので予想はしていたもののかなり手こずり、挙句に糊付けに失敗(糊が弱すぎた)して、機に掛けて織り始めたら大変な毛羽立ちでした。ここまで来るともう後戻りは出来ません。機の上で糊をスプレーで糸に吹きかける⇒乾燥する…を繰り返しながら何とか最初の一反を織り上げました。


この糸を使って“海老茶・無地”の反物を織っています。節のある糸が味のある布になり、きっと存在感のある無地着物になると思います。そしてこれは着る人本人しか味わえないのですが、この糸で織った布はふくらみのある柔らかな手触りが魅力です。
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by kageyama_kobo | 2013-10-31 20:46 | 染めと織りの素材

アタカスのマフラー

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アタカスという名の野蚕があります。生息の北限が沖縄の与那国島との事で日本名は“与那国蚕”と言い、羽を開くと30センチにもなる世界最大の野生の蚕として有名です。

写真はそのアタカスの繭で、中の虫はすでに羽化してもういません。この繭がインドネシアで糸に紡がれ、ある日私の手元にやってきました。

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繭の色は金色からグレーやこげ茶など濃淡が豊かで、経糸に使うとこの色が不規則に現れて味わいのある縞模様となりました。今回は緯糸に経糸と同じくらいの太さのタッサーシルクの強撚糸を織り込んでみました。

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織り上がった布を糊落としすると強く撚られた緯糸が縮んでご覧のようなシボが出ます。独特のシャリ感のあるこの布は長さ160センチほどに切り分けて端の処理をし、マフラーに仕上げました。

このマフラーは11月22日~30日に開催の“静岡・亀山画廊”での作品展で展示します。
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by kageyama_kobo | 2012-11-14 23:20 | 染めと織りの素材

秋が来るとこの染料が活躍します

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毎年10月に入るといつもの場所に山栗(芝栗)拾いに出掛けます。8月末から食べられる丹波栗は実は大きいのですが味がいまいち。しかしこの山栗は味が濃く、特に“栗ご飯”に炊くと味が活きるように思います。
今年は仕事の都合で実が落ちる時期に出掛けられなかったので“山栗ご飯”は来年までお預けです。
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栗の実は収穫できませんでしたがお目当ては実だけではありません。栗のイガをしっかりと拾ってきました。たっぷりのお湯で煮出して糸を染める染液を作ります。
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     今回は“和綿をガラ紡製糸”した糸を栗で染めました。
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経糸は生成りのまま、緯糸を栗で染めて杉綾に織りました。織り上げたらフリンジを作って“コットン・マフラー”になります。

原糸の状態ではウールのような弾力のある“和綿のガラ紡糸”がどのような布に仕上がるのか、糊落し・仕上げ後の風合いがとても楽しみです。
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by kageyama_kobo | 2012-10-20 19:20 | 染めと織りの素材

トルコの綿で紡いだ糸

f0175143_22553585.jpgトルコの綿を手紡ぎした糸で白無地の布を織って欲しいという依頼を受けました。
少々太めの糸を手に取ると、いかにも「紡ぎにくかったんだろうなー」と思ってしまうような太い節が沢山見受けられます。


f0175143_2256153.jpg経糸を整経して機に掛けると、カセで見るよりもはるかにその節が目立ちます。


f0175143_22561649.jpg織り始めてみると思ったとおり、沢山の節たちがそれぞれ自己主張して何とも個性的な布になりました。

経糸に節が多いと綺麗に織るのにはとても手間が掛かります。特に太い部分が筬に引っ張られた状態で織り込まれると布の表面に経糸が飛び出してしまうので、これを手直ししながら織っていかなければならないからです。

とても綺麗な布とは言えないのですが、手間ひま掛けて織り上げた布には出来不出来で言えば不出来な布ほど愛着を感じてしまいます。
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by kageyama_kobo | 2012-09-07 23:14 | 染めと織りの素材

ガラ紡製糸された和綿の糸で織りました

f0175143_1619967.jpgガラ紡製糸された和綿の糸の試織を頼まれました。カセを握るとウールのような弾力があります。この和綿独特のふくらみを活かすには糸の密度は高くしないほうがいいと判断し、経糸は荒めの筬に通して準備しました。

引っ張り強度に少々不安はありましたが、双糸に撚ってあるので思い切って糊付け無しで機に掛けました。

f0175143_161913100.jpg予想通り、織っている最中に何回か経糸の抜け切れはありましたが何とか織り上がりました。

試し織りは“平織り”と“模紗織り”の二種類。どちらも手に取ると和綿の柔らかさとふくらみが心地良い布になりました。

この布はこのまま依頼主に渡してしまうのですが、使って洗ってどのような風合いに変化していくのかとても楽しみな素材でした。
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by kageyama_kobo | 2012-04-14 16:23 | 染めと織りの素材