機織り職人の仕事場から…

“麻のれん”の仕上げ作業

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私の住む静岡県は一昨日が梅雨入りでした。それでも今年は6月は空梅雨との事で、今日は朝から晴天です。

昨日織り上げた“麻のれん”ですが、仕上げ作業はてっきり天気待ちかと思っていたら思いがけず太陽が顔を出してくれたので、空模様が悪くなる前に大慌てでやりました。
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我が家の麻布の仕上げは、まず布を水に漬けてしっかりと水分を含ませた後“張り手”という道具を使って庭に布を張ります。
そして布が乾く前に布全体の両耳を引っ張って幅出しをします。
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細糸で麻布を織る場合は耳がきれいに織れるように両耳の経糸のそれぞれ8本ほどを筬に“混み挿し”にします。このようにして織ると両耳が若干突っ張ったように織り上がるので、この段階で両耳を縦方向に引っ張って布の両耳と真ん中(矢印)が平らに乾くように手を加えます。

麻糸は私にとってはとても気難しい糸で、下手に織ると耳が波打ったり突っ張ったりするので気が抜けません。麻らしいシャキッとした布に仕上がるよう最後の丁寧な仕上げは欠かせないのです。
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# by kageyama_kobo | 2016-06-08 23:09 | 仕事のコツ

新しい整経台

f0175143_20241158.jpgこの度の仕事場のリフォームに合わせて整経台も新調しました。サイズは以前のものとほぼ同じですが、あちこちに改良を加えてあります。
今回は少々長くなりますが、この整経台を紹介します。

一番の改良点は、今までのものは据え置き型だったのに対して新しい整経台は折り畳み式にしました。使用しない時に仕事場の床を広く使うための苦肉の策です。

f0175143_20242914.jpg整経を行なう時は“管立て”を手前に傾け、整経台を起こして足を取り付け斜めに固定します。

f0175143_20244732.jpg整経台の木枠は4か所の蝶番で壁に固定してあります。

f0175143_20245979.jpg足は手前左右の角に柱を立て、それぞれ蝶ネジ一本で固定します。きゃしゃに見えますが木枠ががっちり作られているので少々触ったくらいではビクともしません。

この足の部分と壁に蝶番で止めてある部分は以前の整経台の木材を使っています。先輩が後輩をがっちり支えてくれています。

f0175143_20251427.jpg経糸を掛ける“駒”は竹を削って作りました。頭の部分は握りやすいように四角に、根元の部分は糸が自然に曲がるように丸くしてあります。

整経の作業中、時に使わないとなりの駒が邪魔になることがあります。そんな時は取り外すことができるよう抜き差し自由にしてあります。

f0175143_20252877.jpg整経台を使わない時、長い“綾取り棒”は邪魔になるので、これはネジ式にして取り外せるようにしました。

f0175143_20254130.jpg実際に使う時はこのようになります。

f0175143_20255876.jpg木枠の左上の隅にヘラ状の竹で“糸休め”を作りました。

整経の最中に糸を替える時、電話に出る時、トイレに行く時、玄関に宅急便が来た時、ここに糸をはさんでおけば糸を緩めないで手を放すことができます。

f0175143_20261336.jpg整経が終わったら残った糸を切り離すために、私はいつからかこの位置に少し大きめの“握りハサミ”を置くようになりました。

作業中に結び目を直したり糸の節を取ったりする時も、この場所にハサミがあるととても重宝します。

f0175143_20262545.jpg整経が終わったらまずヒモで綾を取ります。

f0175143_20264040.jpg次に麻ヒモで最後の部分をきっちりと結びます。

f0175143_2027024.jpg麻ヒモで結んだところを左手で持ち、綾取り棒の左側の部分の糸を右足で踏みつけ(普通の方はこの部分は軽くヒモで結んでおくとよいでしょう)、刃の反った小刀でザクッと切り離します。

この部分は小刀の刃が何回も当たるので深く掘れてしまいます。それを防ぐためにカッターナイフで紙などを切る時に下に敷くカッティングマット(緑の部分)を小さく切って埋め込んであります。

f0175143_20271376.jpg糸を切る場所のすぐ上の駒だけは鉄の棒(五寸釘)の頭を丸く磨いたものを使います。最後に整経台から経糸を外す時、先ほど麻ヒモで結んだ端の部分を二つに裂いてこの駒に刺せば、糸の束の終わりの端が簡単に固定できます。

父の時代から60年間使い続けてきた整経台。使いにくい部分をすべて改良し、今は快適な整経作業ができるようになりました。
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# by kageyama_kobo | 2016-05-29 21:38 | 道具の話

ルームライト(Loom Light)

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機を織る時に手元を照らす照明は私にとっては重要な道具の一つです。我が家では三台の機のそれぞれに20ワットタイプの蛍光灯照明を使用しています。照明の明るさの感じ方は人それぞれで違うのでしょうが、老眼により視力が落ちてきた私にとっては少しでも明るい照明器具が欲しくて今までいろいろと工夫を加えてきました。

まず最初は反射傘の部分に反射効率の高いアルミ蒸着マットを張り付けてみました。これはそれなりの効果はあったのですが、あくまでも“それなり”でした。

次に電球を蛍光管からLED電球へ変更しました。グロー球を取り外すだけで使用できる20ワット蛍光灯タイプのLED電燈に付け替えると照明の明るさは一段と増してかなりの満足感がありました。

そしてこの度の我が家のリフォーム。家の外壁や屋根の板金工事をしてくれたS君という若い職人さんと話をする中で「S君の仕事で銅板なんか使うことはあるの?」と質問すると「ありますよ」との返事。この時頭に閃いたのは「銅製の照明器具が作れたら格好いいな」という事でした。

何回か相談をしていくうちに構想がまとまり、寸法と構造を図面に描いてS君に渡すと何日か後に作ってきてくれたのです。
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照明器具は一体型(電球交換をしないタイプ)のLED電球を取り付け、構造をシンプルにしてあります。全体は銅板でできていますが内側の反射傘の部分には自然な反射光が得られるように薄いステンレス板を張ってもらいました。
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吊り金具は真鍮板を切って削って穴を開けて自作しました。
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コンセントにつなげるコードとスイッチを取り付けて完成です。
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ご覧のように世界に一つだけの重厚なルームライト(Loom Light=機照明)が完成しました。最初はギラっとした赤金色でしたが、時が経つほどに表面の色がくすんで風格が増します。

もちろん、明るさは十分満足できるものとなりました。
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# by kageyama_kobo | 2016-04-19 00:01 | 道具の話

糸を絞る(絞り台)

f0175143_22291084.jpgこの度の改装工事では染め場も一新しました。そしてかねてから計画していた絞り台を新調しました。

写真は以前使っていた絞り台です。地面から二本の柱を立ち上げ、この柱を支えに丸太の横棒を渡すオーソドックスな構造です。

f0175143_22292929.jpgこちらが新たに作った絞り台。支柱は一本で横棒は片方のみ固定されています。

この構造は、以前にインドの染織を訪ねる旅で見学した織物の村の染め場で発見しました。染物小屋の太い柱に横棒ががっしりと差し込んであり、染物職人がこの棒に糸を引っ掛けては手際よく絞っていた姿が印象的でした。

この光景を見た時から「いつか我が家にもこの絞り棒を!」と考えていたのです。

f0175143_22294798.jpg二本支柱の絞り台は糸の掛け外しの度に横棒を持ち上げなくてはならないのに対し、片側固定の絞り台は一方が空いているので糸の掛け外しがとても速やかにできるのが最大の利点です。

空いている側は糸がずり落ちないようにストッパーを付けました。

この横棒は60ミリの太さのステンレス製で、鉄工場をやっている友人のお兄さんに特注で作ってもらいました。

f0175143_2230321.jpg支柱は線路の枕木で、水に強い栗の木です。太さも十分あり、二本のボルトで締め上げることで横棒をしっかりと支えてくれます。


f0175143_22302056.jpg横棒の高さは私の体格に合わせて床から88㎝。そして支柱は地面に60㎝ほど埋め込み、コンクリートで固定しています。

写真のような太い麻紐のカセをガンガンさばいてもがっしりと受け止めてくれます。

f0175143_22303544.jpg糸を絞った時に水が落ちる下の部分には石ころを並べました。落ちた水が周りに飛び散るのをかなり防げます。

f0175143_22305219.jpg使わない時は二本のボルトを緩めて横棒を簡単に取り外す事ができます。

写真のようにコンパクトに格納でき、狭い染め場が有効に使えます。



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# by kageyama_kobo | 2016-04-12 23:40 | 道具の話

機の上のスポットライト

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機に経糸がかかった3月31日、いよいよ新しい工房が稼働を始めました。およそ10ケ月ぶりの機の感触に最初は少々戸惑いながら、それでも40年近く使い慣れた機ですからすぐに感覚が戻ってきました。
新しい部屋に古い道具。以前とは大きく変わった雰囲気の仕事場で筬を打つ感触が気持ちいいです。
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最初に機にかけたのは、昨年から依頼されていた手紡ぎの木綿糸の白生地です。不規則な太さの糸なので、織っていると時々経糸が切れる事があります。

手織りの場合、経糸が切れると新しい糸をつなぎ足して写真のように織り手前にマチ針で止めるのが普通です。しかし私はこの方法は好きではありません。一番の理由は、この方法では経糸がこの場所で必ず切れている(つがなりが切れる)ので、それが何とも気持ち悪いのです。布の強度的には全く問題ないのですが“経糸は最初から最後まで、たとえ結び目があろうともつながっていて欲しい”のです。それと、もう一つの理由は“マチ針の刺さった織り手前は醜い”と感じるからです。たとえ誰が見ていなくても綺麗(無駄なものが無い状態)に仕事をしたいと思います。

そこで私は経糸が切れると、切れた所で結び合わせます。結び合わせた後の経糸のテンションに張りや弛みが無いように糸の張り加減を調整しながら結びます。

太い経糸の場合は問題ないのですが、例えば紬の反物の、それも経糸に紬糸を使った場合には結ぶ糸の太さは時に髪の毛ほどの細さになることもしばしばです。このような糸を結ぶ場合に最も重要な事は“糸がちゃんと見えている”事です。
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私は45歳の時に初めて老眼鏡を作りました。その後もこの目はたゆまぬ進化を続けて今日に至っています。そのため年を追うごとに細い糸の扱いがだんだん大変になってきて、現在では機に座る時は老眼鏡が手離せない状態です。

しかし細い糸を結ぶ時だけはどんなに目に合った老眼鏡をかけてもそれだけでは不十分です。そうです、明るい“照明”が不可欠なのです。この二つが揃って初めて“糸がちゃんと見えている”状況を作り出すことができます。

そこで新しい工房では切れた経糸を結ぶ時のために機の上に写真のようなスポットライトを取り付けました。
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機の上で経糸をつなぐ場所は“織り際から間丁まで”です。そこで照明はこの範囲を明るく照らすように調整します。この照明+通常よりも度を強めに作った老眼鏡で、どんなに細い経糸でも機の上で結ぶことができるようになりました。

私と同じ思いをされている方は多いのではないでしょうか。 ご参考までに・・・。
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# by kageyama_kobo | 2016-04-07 21:51 | 道具の話