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機織り職人の仕事場から…

teorimono.exblog.jp

やっと暑さも一段落

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長く暑かった夏もやっと終息の気配。
秋風を感じる晴天の日は、絶好の顔料染め日和

豆汁に溶いた松煙を、絣をくくった麻糸に揉み込みます。
しっかり絞った後は糸をさばいて乾燥させるだけ。

夏の間は絶対にやりたくなかったこんな作業が
少々汗ばみながらもできるような季節になりました。

この糸は白とグレーで富士山模様ののれんになります。


# by kageyama_kobo | 2022-09-17 10:05 | 仕事場の風景

房結びはこんな方法で…筋立(すじたて)

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私には珍しい柄入りの紬の反物を織りました。目玉織り(メガネとも言う)で柄を入れました。
薄茶地の中に赤・緑・金茶・白の4色の目玉模様が不規則に入れてあります。

実はこの反物、3年前に織り上がっていたのですが仕上げをせずに押入れの中で眠っていました。
それと言うのも、私の反物の糊落としはデンプン分解酵素を使います。
この酵素は液温30℃で8時間ほど生地を漬け込んでおくことで糊を分解して落とすことができます。

ところが以前、薄色の生地に濃い縞模様を入れた反物をこの方法で糊落とししたところ、
縞模様の赤や緑が薄色の地の部分に滲んでしまったことがありました。
結局この反物は日の目を見ることなく今も我が家の押し入れに眠っています。
そして今回の反物も薄色の地に赤や緑が入っていることから、怖くて糊落としが出来ませんでした。

この事を染料屋に相談すると「この定着剤を使えば大丈夫だと思います」と言って
ある定着剤を勧めてくれました。

今回はこの定着剤のテストのつもりで意を決して糊落としを実行しました。
季節は夏。常温でも液温30℃を維持できることから「時々生地を動かせば、色移りを防げるかもしれない」と
タライにいつもよりたっぷりの液分解酵素も多めに入れて、さらには1時間ごとに生地を動かし
浸けこみ時間もいつもより短縮しました。

結果はオーライで、色移りもなく奇麗に糊落としが完了しました。

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糊落としが終わったら、水洗→ザラ干し→アイロンがけ→ザラ干し→板巻き→砧打ち…と仕上げ作業を行います。
検尺して棒巻きにしたら、最後の工程の房結びです。

房結びをすることで布がさらに良くなるわけではないのですが、これをすることで最後まで丁寧に作り上げた気分になります。

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房結びの時に活躍するのがこの道具です。
日本髪を結う時に使う筋立(すじたて)という櫛です。

高齢となりもう織物が出来ないという知人から織り道具を一式を譲り受けた中に入っていたもので、
始めは気にも留めなかったのですが、ある時手に取って使ってみると思いのほか重宝しました。

尖った部分は写真のように糸を分けるのにとても便利で…

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水をくぐって緩んでしまった織り始めの部分の緯糸を引き締めるのに、櫛の部分が活躍してくれます。

着尺の仕上げだけでなく、マフラーやストールのフリンジを始末するのにも大変重宝します。



# by kageyama_kobo | 2022-08-31 21:11 | 道具の話

“天蚕糸入り紬着尺”織り上がる

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今月初めに織り始めた“天蚕糸入り紬着尺”がやっと織り上がりました。
今回使った玉糸は節が多く、織っている最中も頻繁に節取りを行いました。

経糸の節取りはとても面倒なのですが、この節があるからこそ出せる布の風合いがあるので、
私としては使わずにいられない素材です。

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毛羽立ちやすい経糸を最後まで織り切りたい時、私はこの秘密兵器を使います。
名前を“オリキル”と言います。もちろん駄洒落です。

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織り終わりの部分の経糸は千切布に何ヶ所かに分けて結ばれています。
この結ばれた部分は経糸の密度が特に高くなり、踏み木を踏むと隣同士の糸が激しく摩擦します。

この摩擦による糸の毛羽立ちを防ぐために、ひと結びごとに糸を四等分に分けます。

この織り終わりの部分が綜絖から40㎝ほどの所に来たら綾棒を抜き、
代わりに細い竹の棒を一本、踏み木を踏んで糸の間に入れます。

つまり、経糸の隣り合う一本一本が竹の棒の上下に分けられ、
隣り合う糸同士は竹の棒の太さ分距離が離れるため、摩擦が軽減されます。

この道具を使うと、玉糸・紬糸・手紡ぎの木綿糸など節の多い経糸を最後まで確実に織り切ることができます。

(理解できない方はこの部分は飛ばして読んで下さい)

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今回使った緯糸は、貴重な国産の紬糸です。
何故かこの糸もとても太い節が多く、緯糸の節取りも頻繁に行いました。
機に取り付けたゴミ箱は、この節で溢れんばかりです。

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経糸と緯糸から取り除いた節は、グッと握ってもこれだけの分量がありました。


現在市場に出回っている紬糸のほとんどは中国産の糸で、国産の紬糸は見当たりません。
40年以上前、当時取引していた糸屋から送られてくる紬糸が国産から中国産に変わりました。
その時には中国産の紬糸を「節がおとなしくてなんて綺麗な糸なんだろう!」と驚いたものです。
節取りの手間がかからないので織るスピードも速く、
一反の反物を二日で織ったこともありました。(緯糸巻きは家族に手伝ってもらいましたが)

その糸も段々質が落ち、現在では今回使った糸同様に常に節取りに時間を取られます。
「あの時の糸があったら今の3倍の値段でも買いたい」と思うほど
近頃の紬糸の品質の低下を嘆かわしく感じています。

「綺麗な紬糸で気持ちよく着尺が織りたい!」と願う今日この頃です。



# by kageyama_kobo | 2022-08-21 22:36 | 染めと織りの素材

お盆休みは“サナギ”の取り出し

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昨年3月、縁あって我が家にやってきた“天蚕の繭

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群馬県で座繰り製糸を行っている東宣江さんにお願いして、この繭を糸に引いてもらいました。
2,500gあった繭から210gの糸が引けました。という事は、歩留まり8.5%!

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現在この糸を縞に入れて焦げ茶地の紬の反物を織っています。
天蚕糸の妖しい光沢が独特の存在感を放っています。

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繭から糸を引く時、糸口を見つけるために表面の繊維を取り除きます。
この部分を“緒糸(ちょし)”と言います。

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そして、糸を引いた後に残るサナギに近い部分の薄皮を“ビス”と呼びます。
つまり、このビスの中にはまだサナギが入ったままです。

私はこれら“緒糸”や“ビス”を精練して真綿にし、これを糸に紡ぎたいと考えています。


本当は現在織っている“天蚕糸入り紬”の反物を早く織り上げたいのですが、
お盆の真っ最中に機の音を町内に響かせるのも気が引けます。

そこで思いついたのが、このビスの中からサナギを取り出す作業でした。
数が多いので普段の仕事の合間にというわけにもいきません。
お盆ならじっくり取り組めると思ったのです。

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これがすべてのビスです。
サナギを取り出し始めてふと「これって一体何個あるんだろう?」という疑問が浮かびました。

緑のざるに入っているのがサナギを取り出したもの。
その他がこれから取り出すものです。

小さなまとまりがそれぞれ100個で、全部で1,300個以上ありました。

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全てのビスからサナギを取り出すのにどのくらい時間がかかるのか分かりませんが、
「千里の道も一歩から」と腹をくくって作業台に向かいます。

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ビスの薄皮をハサミで切ると、大きなサナギ幼虫が最後に脱皮した皮が一緒に出てきます。

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中には、繭は作ったものの脱皮や変体が出来ずに幼虫の姿のままでいるものもいくつかありました。

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サナギを取り出したビスは光沢と透明感があり、とても奇麗です。

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結局、8月14日と15日の二日間かけて1,340個のビスから、バケツにこぼれんばかりのサナギを取り出しました。
このサナギは庭の畑に撒いて野菜の肥料になってもらいます。

真ん中のビニール袋に140個、そのほかの袋には200個づつ入っています。
合計で200gの繊維が採れました。

これらの素材からどんな糸が作れるのか、期待が膨らみます。

# by kageyama_kobo | 2022-08-16 12:09 | 染めと織りの素材

藤井慎介*影山秀雄 木工染織展 in 八ヶ岳倶楽部 2022

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お知らせが大変遅くなりました。
来る6月30日より、山梨県北杜市の“八ヶ岳倶楽部”にて
木工の藤井慎介氏との二人展を開催します。

めったに他人との合同展をやらない私ですが、藤井氏の作品とだけは
一緒に展示することをいつも楽しみに感じています。

ぜい肉をギリギリまでそぎ落とした藤井氏の木工作品と私の布との
会話を楽しむようなステージをお楽しみ下さい。


※会期中は私も藤井氏も会場でお待ちしています。

# by kageyama_kobo | 2022-06-28 19:35 | 発表の場