「マコモって織れるかな?」という電話が突然友人からかかってきました。
「マコモ?!、マコモタケなら食べたことがあるけれど、あのマコモ?」と聞くと
「水辺の植物で、葉っぱが2mくらいになるやつ」との事。
話を聞いていくとその友人は神道に関わる仕事に就いていて、
依頼の品物は神前にお供え物をする、その下に敷く“むしろ”のような物の事を言うらしい。
正式には“薦(コモ)”と言い、辞書を引くと「マコモを荒く編んだムシロ」と出ています。
真菰(マコモ)は神道でも仏教でも神聖な植物とされていて、物や人の体を浄化する作用があるそう。
それで古くから宗教行事に使われてきたとの事です。
「見本になるものか、マコモ本体を見せてもらえば判断できるんだけど…」と言うと、すぐに持って来てくれました。
「大きさはどのくらい?」と聞くと「90㎝×180㎝」との事。ならば、広幅の機を組まなくてはなりません。
半日がかりで小幅の機を分解し、広幅の機を組み立てました。
織り幅は90㎝ですが、織る物はムシロのような物なので経糸はご覧の様にわずか30本です。
神前に使われるものなので、素材は手績みの麻糸を使いました。
緯糸となる真菰(マコモ)はご覧のような物。
細長い葉っぱが乾燥されて束になって届きました。畳表のイグサのような匂いが仕事場に漂います。
これを選別して使いやすい部分を切り揃え…
このような状態に準備します。
織る時はもちろん杼などは使えません。ご覧の様に手で差し込んでいきます。
織り進んで斜行しないように、緯一段に葉の根元と葉先の向きを逆にして二本づつ織り込みます。
今回の素材は乾燥がまだ若いのか、織り込んでみると予想外に鮮やかな色が浮かび上がりました。
かくして2枚の“薦(コモ)”が織り上がりました。
素材が規格品ではないだけに、“布”とも違う独特の存在感のある品物が出来上がりました。
今回の仕事で“織物の仕事の面白さ”を再発見させてもらいました。