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機織り職人の仕事場から…

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「綿絹麻布」を織る

先日、珍しい素材色の布の注文を受けました。
依頼主のご希望は「木綿と絹と麻の3種の糸を使った作務衣を作りたい。色は紫」との事。

「木綿と絹と麻」という糸使いは以前に一度織った事がありました。
その時の端布を引っ張り出してみると、作務衣にも使えそうななかなか良い風合いです。
身の程知らずに買い集めた沢山の糸の中からこの布に使った糸を探し出すのに少々時間が必要でしたが、
経糸3種に緯糸1種の4種類の糸が何とか見つかりました。

これで糸は準備できたのですが、問題は“色”です。「紫」というご希望ですが、
この色には私は苦い経験があります。

私がまだ20代の頃に知人から「紫の着物を織ってちょうだい!」という注文をいただきました。
当時から「紫は紫外線で退色しやすい」という事を知っていたので「他の色ではだめですか?」と
色の変更をお願いしたのですが「一番好きな色が紫なので、是非!」と言われ、絵羽柄の紬の反物を織りました。
無事に織り上がり、次は糊落とし、そして庭に張って伸子を掛けて干し上げます。

干し上がった布を取り込み、家の中に持ち込んで端の部分をまくった時、心臓が止まりそうになりました。
表と裏の色がくっきりと違うのです。つまり“色焼け”ですね。
「やっぱり紫はダメか!」と痛感しました。

結局この反物はお客様に収める訳にはいかず、無理を言って他の色に変更させていただきました。
なので今でも我が家のどこかにある筈ですが、もう見たいとは思いません。

以上のような経験から「もう紫の布は織るまい!」と心に決めていたのですが、
最近になって染料屋のカタログで下のような染料を見つけました。

「綿絹麻布」を織る_f0175143_23113883.jpg

真ん中にある(耐日青紫)と書かれたこの染料が気になりました。
こう書くからには紫外線に対する堅牢度も高いはず。そして“直接染料”なので木綿・絹・麻のどれにも使えます。
早速この染料を取り寄せ、この色を基調に何種類かの染料を加え色を合わせて糸を染めました。

経糸に木綿と絹と麻、緯糸は木綿のスラブ糸を使います。
繊維の違いにより色の発色や光沢もまったく違うので、
この三種類の糸が織り出す布がどのような色や風合いになるのかとても楽しみです。
そして、この紫の染料の堅牢度がどの程度あるのか確認したいと思います。

「綿絹麻布」を織る_f0175143_23114612.jpg



# by kageyama_kobo | 2021-08-10 23:28 | 染めと織りの素材

愛用の織機は私専用の作業台

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注文をいただいた暖簾が織り上がり、湯通しの仕上げも済んだのでいよいよ布を裁断して縫製です。
私の縫製の作業はご覧のようなスタイルで行います。

私がかけているメガネは特注品で、度数の最も高い老眼鏡+乱視を矯正したレンズを入れています。
糸目を拾いながら縫い進める暖簾の縫製や、細糸の筬通しには無くてはならない大切な道具です。

話を戻して、この作業をしている場所はこんな↓所です。
愛用の織機は私専用の作業台_f0175143_17511613.jpg
そうです。私がメインで使っている織機の上です。

この織機は間丁(けんちょう)から鳥居の柱までの間に水平の横木があります。
この上にべニア板(グレーに塗装してある)を乗せることで、かなり広い作業台となります。

私はこの上で織物の設計から糸の選別、千切り巻きのための巻き筬通しなどあらゆる作業を行います。
千切り巻き→綜絖通し→織り筬通しが終わって経糸を機に掛ける時にはこの板は外しますが、
それ以外の時はほとんどこの状態で、便利に使っています。
愛用の織機は私専用の作業台_f0175143_17512890.jpg
この織機が我が家に来たのは今から50年以上前の事。
知人の紹介で長野県飯田市の機大工に注文しました。

構造的に非常に優れた造りで、その使いやすさは一言では語れません。
最初の一台を購入した後すぐに二台目も注文し、私の両親はこの二台でずっと仕事をしていました。

その後私が大学を卒業して家に戻り両親と一緒に仕事をするようになって間もなく、
父が「今日からこの機はお前が使え」と言ってこの機を私に譲り、
自分は以前から使っていた厩機(うまやばた)を使っていました。


話は変わって…2014年に長野県の織物産地を巡る旅行に参加しました。
その折に訪れた駒ケ根市の織物工場ではこれと同じ織機が使われていました。
案内をしてくれた方に「今でもこの機は作られていますか?」と質問すると、
「もう止めてしまった」との事でした。
「それは残念、いい機なのに」と話すと「別に残念でもない」というような素振りでした。
そしてその理由はすぐに分かりました。
工場の中を案内されている途中で通りかかった広い部屋の中に、この機がぎっしりと置かれていたのです。

これは私の想像ですが、かつて“紬ブーム”の頃にはこの工場からたくさんの“出し機”が
近郷の人達に出されていたのではないでしょうか。
その後“着物離れ”が進み、あちこちに貸し出されていた織機が回収されてここに集められたのでは…。

もう使われる当てのない織機の山を見て「いい道具なのにもったいないな」と思ったことを
時々思い出します。






# by kageyama_kobo | 2021-05-30 22:49 | 道具の話

奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)

“紬”と呼ばれる布があります。
真綿から紡ぎ出された糸を“紬糸”と呼び、この糸を経糸や緯糸に用いて織られた布をこう呼びます。

紬糸の特徴は何と言っても糸全体に不規則な太い・細いがある事。
そして真綿から紡がれただけに、糸自体に空気が含まれているという事です。
そのためにこの糸で織られた布には独特の膨らみと風合いが生まれます。

我が家の仕事はそもそも、この“紬の反物や帯”を織る事が本業でした。

私も今までに何百反という紬を織ってきましたが、作業の中で常に念頭にあったのは
「奇麗な紬を織りたい」という事でした。
(この“奇麗”は色や柄ではなく、布地を指します)
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20060613.jpg
“紬糸には太い・細いがある”と書きましたが、それがこの写真です。
特に太い部分を“節”と呼び、この節がある事で紬独特の味わいが生まれます。

しかしこの節も極端に太いと“味わい”ではなく“織り傷”になってしまうと私は感じています。
そして、この“織り傷の無い布”が“奇麗な紬”であると考えます。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20061709.jpg
そこで、糸の極端に太い部分は撚りを戻して裂き、太く見苦しい繊維を取り除きます。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20052880.jpg
この太い節を見逃すと、このように“蛇が卵を飲んだ”ような織り傷が出来てしまいます。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20053797.jpg
時にはこのような塊りが布の表面に残ってしまいます。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20054582.jpg
矢印の部分は糸を紡ぐ段階で混ざり込んだ草の繊維のようなもの。
赤い線の部分は、この草の繊維が布に織り込まれてしまっています。
これは明らかに織り傷です。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20055411.jpg
この赤線の部分は比較的おとなしい節で、これはOKとする人もいますが、
私はこの程度の節も出来る限り取り除きます。
奇麗な紬が織りたい!(紬の節と傷の話)_f0175143_20063068.jpg
私の紬はほとんどが経糸に“玉糸”を用います。
玉糸もところどころに節のある糸で、この節のお陰で立体感のある布が織り上がります。

しかし、この経糸の節も極端に太い場合は織り傷になったり、時には隣の糸に絡んだり
筬に引っ掛かったりとトラブルの原因になります。
そんな時は写真のように“毛抜き”を使って余分な繊維をつまみ取ります。
爪の先で取ってもいいのですが、毛抜きの方がより繊細な作業が可能です。


私は若い頃からこの節取りの作業の事を“ゴミ取り式”と呼んでいました。
ゴミ取り式が多い場合は作業効率が極端に落ちます。

それでも傷織りだらけの布を織る訳にはいかないので
せっせとゴミ取り式に勤しむのです。








# by kageyama_kobo | 2021-05-08 21:10 | 仕事のコツ

千巻にお腹を着ける派? 着けない派?

私が開いた織物の講座で参加者に「機を織る時に、千巻の部分にお腹を着けますか?」と質問をしました。
そうしたら半数以上の方が「着けます」と答えました。
「その理由は?」と尋ねると「体が安定するから」もしくは「そう教わったから」との事でした。

私が職業として織物を始めた20代の頃、多分私も千巻にお腹を着けて織っていたと思います。
ある時、反物を一反織り終えて機から生地を外した時、生地の真ん中にスーッと一本筋が付いていました。
「しまった! 傷を織ってしまった!」と驚くのと同時に、その原因を考えました。

理由はすぐに分かりました。私のベルトのバックルが織っている間中生地に当たっていたのでした。

幸いにもこの筋は擦れて出来たもので、湯通しをする事で消えてくれたので事無きを得ました。
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この出来事以来、私はお腹を千巻に着けない事を心がけて機を織っています

それでもある時、織り上げた布に青い汚れが付いていた事がありました。
自分では離していたつもりでしたが、履いていたジーンズがわずかに生地に触っていたのです。

そこでこの部分が確実にズボンやベルトのバックルに触れない方法を考えました。
千巻にお腹を着ける派? 着けない派?_f0175143_21041961.jpg
ご覧のように布を一枚、織り前に掛けておくのです。
これで織り上がった生地がお腹と接触する事はなくなりました。

更には夏の暑い季節にうっかり汗を落としてしまっても、生地を汚すことを防げます。
千巻にお腹を着ける派? 着けない派?_f0175143_21043250.jpg
私はこの布を2枚持っています。どちらも着古しのジーパンです。
一枚は普通のブルージーンズ(右)で、もう一枚はブリーチしたジーンズ(左)です。

理由は、写真をご覧いただければ一目瞭然。
織っている緯糸の色が濃かったらブリーチジーンズを、
薄色の緯糸を使っている時はブルージーンズを使います。

これで、細い紬糸がグッと見やすくなり、作業効率が上がります。
千巻にお腹を着ける派? 着けない派?_f0175143_21044218.jpg
どちらの布にも着古したコールテンのシャツの背中の部分を切り取って裏地として張ってあります。
コールテンの生地は毛足があるので、機織りの振動にも布がずれにくく、
更には当たりが柔らかいので、下の布との摩擦も軽減されます。

そんな訳で、この布(名前はありません)は今の私には無くてはならない道具となっています。





# by kageyama_kobo | 2021-05-02 21:43 | 道具の話

手機織処 影山工房 織りもの展 in RYU GALLERY

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昨日から、地元富士宮市の RYU GALLERY で作品展が始まりました。
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小ぢんまりとしたギャラリーですが、白壁のシンプルな内装でとても展示が映えます。
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壁面にはのれんやマフラー・ストールなどを…
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こちらはこの冬力を入れて織ったカシミヤ・キャメル・ヤクのストール類。
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窓際にはネックウェアやマット類。
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色々な素材を使ったので、使用した糸も触っていただこうと思い展示しました。
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これからの季節に活躍しそうな手紡ぎの綿糸のマフラー。
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こちらは蓮糸のマフラー。
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生前に父が織った絹のネクタイ。
以前はファンが多かったです。今回久々に登場しました。

その他、綿麻のテーブルマットやコースターなども多数展示しています。

明日以降は 4/3,4/4,4/7,4/10,4/11 に影山が会場にいます。
ご都合が付きましたらお出掛け下さい。







# by kageyama_kobo | 2021-04-01 22:42 | 発表の場